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月明かりが作り出した白い聖域と、その光の聖櫃で眠る少女。
綺麗だと、思った。
素直に、ただ素直にそう思った。
心が、震える。
それは、これまでに感じたことのない感情だった。
先刻までとは違う、不思議な感覚。
怖くは、ない。
不安も、ない。
白い世界が、
こんなに温かいとは、
知らなかった。
心地よいめまいが起きる。
体の中にたまっていた重たい空気を吐き出す。
身体が、浮いてしまいそうなほど、軽い。
これなら、一緒に飛べる──少女に手を伸ばす。
『それは、まやかし』
「うわっ!」
指先が少女に触れた途端、再び全身に電気が走る。
体の奥底に潜んで蠢く闇から、稲妻がほとばしる。
激しい痛みに顔を歪め、転がるように部屋の奥の暗がりへ逃げる。
『ほら、だから言ったのだ』
闇がニヤリと嗤う。
『あれは、お前から自由を奪うもの』
膝をかかえ、震える体を縮める。
『あれは、お前に苦痛を与えるもの』
少女を睨み、唇を噛みしめる。
『そうだ。そうなのだ』
闇の声が甘くささやく。
『あれは、邪魔なものなのだ。
葬り去れ……いや、だが触れてはいけない』
生暖かな闇が心を撫でる。
『まやかしを吐き出すあれを、消し去れ!』
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