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「そうだね」
抱えていた膝を放す。
「そうしたら、楽になれるんだな」
『そうだ。思うがまま生きるために』
少女を見つめる。
「殺さなければ」
『殺られる』
呪詛をつぶやき、少女に手を……
『触れるな』
ビクンと手を止める。
「触れたら、俺は──?」
手が小刻みに震える。
「こわ、い」
『怖いことなどない』
伸ばした手に、紅と闇の光が絡み合う。
やがてそれは渦となり、何本もの槍となった。
『そうだ。──やれ!』
声と共に槍が飛ぶ。
が、
パリン……
槍は、もろかった。
少女に届く前に、ガラスのように砕けて消えた。
『またか!』
心奥で闇が忌々しげに叫ぶ。
月の光が強さを増した気がした。
少女の身体を包んでいた光が辺りに広がり、指先に絡み付く。
「ぅわぁっ!」
突然のことに驚いて光から逃げようとするが、体が動かない。
いや、逆に白い聖域の中に引き寄せられる。
『な、にぃ!?』
ビリビリと激痛が全身に走り、体に纏っていた赤黒い光が雲散する。
悲鳴に似た甲高い音が耳の奥で鳴り響いた。
イタイイタイイタイ……
光の中、荒い呼吸を繰り返し、自分自身を抱きしめ、血が出るほどに強く唇を噛む。
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