1・破瓜の封印

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得体の知れない恐怖感というものを、初めて知った。 「うわぁぁぁ!」 跳ねるように立ち上がり、そのまま少女を飛び越えて窓から外へ。 着地した庭でうずくまり、両手で顔を覆うと、うめき声を漏らして体を震わせた。 怨言にも似た声が辺りに低く響き、生きるものすべてが息を潜める。 どれくらい経ったか──長い時間続いたそれが、不意に止む。 ゆっくり立ち上がると、今度は、奇声を発して当たり構わず触れるものを壊し始めた。 木々をなぎ倒し、納屋の壁や窓を打ち破る。 恐ろしいほどの力で機械や農機具を放り投げ、粉々にしていく。 不安や苛立ちを、消したかった。 これまで触れたことのない感情を、忘れたかった。 だから、ただひたすら、壊し続けた。 ミシミシと鈍い音をさせて、大きな杉の木がゆっくりと倒れる。 飛び立つ鳥の羽音が遠退き消えて、そこでようやく動きを止めた。 時間までもが止まったか──辺りはしんと静まり返り、荒い呼吸だけが空気を乱していた。 空を見上げる瞳に、真円近い月が、凛と輝いている。 その、白く穏やかな光に目を細めるうち、呼吸は緩やかになり落ち着きを取り戻す。 自然と。 意識せぬままに。 心に浮かんだ言葉が声になる。
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