29人が本棚に入れています
本棚に追加
すべてが眠りに就く夜陰の大地に、サイレンが冷たく響き渡る。
林道を走り抜ける車が空気をかき乱し、枝葉で眠っていた風の精霊を起こして連れ去る。
雲に見え隠れする月の下で、事の顛末が伝えられていく。
「恐ろしい殺人犯がうろついているらしい」
「襲われた家は血の海で、そりゃあひどい有り様だってよ」
「しかもそれは、高校生ぐらいの子供の仕業なんだとよ」
耳にしたものたちは不安と恐怖におののき、或いは好奇心に胸を躍らせて暗闇に目を凝らした。
しかし眠り続けるものたちは、それらなど知りもせずに、己の世界の安穏に身を浸らせていた。
風の精霊たちは顔を見合わせ、小首をかしげて、慌ただしく動き出す人々に苦笑いを浮かべた。
しばらくの間、翻弄され、乱れる空気に体を任せて楽しむ。
だが、不意に遠くから近づいて来る冷たい殺気に驚いて、精霊たちは一斉に空へと飛び立った。
天空で止まり、下界を見下ろす。
闇に支配された大地に点々と灯る明かりが、空の星々に似て綺麗だった。
見上げ、星の巡りに祈りを捧げる。
同じ時間を生きるすべての魂が
天命のめぐりと
自然の摂理に抗うことなく
いつ如何なるときも
とめどない輪廻の中に
ありますように……
最初のコメントを投稿しよう!