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〇 〇 〇
──朝は、分け隔てなくその部屋にも訪れた。
暗く、深い深い場所から、ゆっくりと体が浮上している。
そんな感覚があった。
なんだろう。
肌寒さと、自分とは違う息遣いを感じて、目を覚ました。
明るい色を感じた脳裏に映ったのは、白い百合にも似た、穏やか少女の寝顔。
一瞬、ドキリと心臓が高鳴る。
「あぁ、そうか」
昨夜のことを思い出し、安堵の息を吐く。
「朝、か」
ほんのりと明るい部屋を見渡し、体を起こす。
軽い頭痛を感じて、わずかに顔を歪めた。
血で汚れたシャツを脱ぎ、素肌で寝たからかもしれない。
小さく息を吐き、隣で眠る少女を見つめる。
夢、だったのだろうか。
昨夜の出来事──自分のしたことが現実だったのかどうか、不安になる。
何をしたのだろう。
少女に。
自分に。
「何故、お前は生きている?」
声に出した途端、微弱な電気が全身に走り、心が痛んだ。
少女の、ボタンの外れた胸元は、静かに上下していた。
その、白い肌に薄紅色のアザを見つけ、にわかに体が熱くなる。
視線を外し、窓枠に寄りかかって空を見上げる。
白んだ空で、小鳥がさえずりながら飛んでいる。
いつもなら、迷うことなく殺していた。
だが今は、ただ見つめるだけだ。
いや──ふと気がつくと、微笑を浮かべていた。
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