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「うがぁぁぁっ!」
突然の叫び声に、前を歩いていた少女がビクッと肩をすくめて立ち止まる。
腰ほどの長い黒髪を揺らして振り返ったその顔には、困惑の色が浮かんでいた。
「あ、ゴメン、驚かせちまったか?」
声の主である少年──笹岡英知はぺろりと舌を出し、金色に近い短めの茶髪頭を小さく下げた。
「ううん、大丈夫。どうしたの?」
「足痛いし、腹すいたからさぁ。ひーもそうだろ?」
小走りで前へ出る。
頭一つ背が高い英知は、腰をわずかに屈めて日和の顔を覗いた。
日和が小さく笑みを漏らす。
「もう? だって、バスを降りてからまだ十分も歩いてないよ?」
「もうったってよぉ、とっくに三時過ぎてんだぞ? 健全なお子様は、おやつの時間だぜ?」
「お子様、なの?」
「オレはなぁ、育ち盛りなんだ」
あきれ半分の双子の妹を尻目に、英知は両手に持っていたカバンや紙袋を道路脇に置いた。
そしてカバンの中からチョコレートの箱を取り出して、日和に差し出す。
「ううん、私はいいわ」
首を横に振り、日和が英知の隣に荷物を置く。
二人は、町内の高校に通う二年生だ。
修学旅行から戻り、最寄りのバス停から家に帰る途中だった。
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