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チョコレートを口に放り込み、ふと日和が遠くを眺めていることに気付いて、英知はその視線を追った。
──長い林の帯に区切られた平地や、なだらかな丘。
そこに、畑や牧草地が茶と緑のパッチワークのように広がっている。
ポツポツと民家が点在している他は、建物など見当たらない。
畑仕事に精を出していたトラクターが、遠く離れた農道を横切って隣の畑に移動するのが見えた。
六月初めの今はまだ畑も土色だが、もう数週間もすれば一面に青々とした作物が育っていることだろう。
その向こうの牧草地では、牛が草を食んでいた。
「帰って来たって感じがするね」
「のどかだからか?
つーかさ、ホント、なんにもねぇよな。田舎にも程があるっての! 一番近いバス停から家まで徒歩二十分ってさぁ……」
「しょうがないよ。うち、幹線道路から離れてるんだもん」
「まぁ、それはしょうがないとしてだ。ひでぇよなぁ?」
また?と言いたげに日和が表情を暗くする。
「そんな顔しなくてもいいじゃん。大体さぁ、悪いのは向こうなんだぜ? 旅行の荷物が大変だろうから、駅に着いたら電話しろって言ったのは向こうだろ!」
怒りの収まらない英知を、日和は苦虫を潰したような顔でなだめる。
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