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「きっと牛舎にでもこもっているのか、外仕事が忙しいのよ」
「それにしたってよぉ、何度も電話したんだぜってハナシだろ。だからいっつもケータイ欲しいって言ってんのによ」
酪農を営んでいる両親は、生き物相手だけに、年中忙しくしていた。
それはもちろん、英知だって知っている。
だが、重たい荷物と旅行で疲れた体は、彼をイライラさせた。
「言ったことに責任持てよな。いつもオレらにはエラソーになんだの言うクセに、自分がちょっと都合悪くなると理不尽な言い訳しかしねぇ」
「理不尽、かな」
「ああ。少なくとも、オレの理論にゃ合ってねぇ」
日和は小さく息を吐いた。
「えいちゃんの言いたいこともわかるけど……ひょっとしたら、予定してた牛のお産にてこずってるんじゃない?」
不安そうな日和の顔を見て、英知は一瞬しまったという顔をした。
が、ポンと浮かんだ言葉にニヤリと笑う。
「へっ、牛の産卵なんざぁほっといて、カワイイ息子と娘を大事にしろってなぁ?」
「産卵って……」
言いかけて、冗談に気付いたらしく笑みをこぼす。
英知は得意満面で右手の握り拳から親指を立ててみせた。
そして、カラになったチョコレートの箱をひねり潰す。
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