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「取り敢えずは満足っと」
ゴミをカバンに押し込み、ふとそれに目を留めた。
しばらく思案し、日和をチラリと見上げる。
日和は、山頂にまだ雪の残る、遠くの稜線を見つめていた。
「……なぁ」
「うん?」
「お前さぁ、みんなにおみやげ買ってたよな?」
「うん」
「ほとんど一緒にいたけど、お前、自分の物って買ってなかったよな?」
「え? ……うん。別に、欲しい物もなかったし」
微苦笑で肩をすくめる日和に、英知はため息をついた。
そして、カバンの中で手に触れていた小さな包みを取り出して、立ち上がるなりそれを乱暴に日和に握らせた。
「ったく、お前ってばよ」
「──え?」
手のひらに残された包みを見て、目を見開く。
「三日目の夜、岩崎たちと夜中に旅館を抜け出してさぁ……って、これは先生には内緒な。ほら、お前、こういうの好きだろ? ったって、見なくちゃわかんねぇよな」
戸惑う日和に、英知はアゴで開けて見ろと促す。
ためらいながらも包みを開けた日和は、中を覗いてあっと小さく声を上げた。
中身を手のひらに出し、英知を見上げる。
それは、ハトをかたどったシルバーのペンダントだった。
「かわいい……どうしたの?」
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