1・破瓜の封印

5/36
前へ
/175ページ
次へ
「取り敢えずは満足っと」 ゴミをカバンに押し込み、ふとそれに目を留めた。 しばらく思案し、日和をチラリと見上げる。 日和は、山頂にまだ雪の残る、遠くの稜線を見つめていた。 「……なぁ」 「うん?」 「お前さぁ、みんなにおみやげ買ってたよな?」 「うん」 「ほとんど一緒にいたけど、お前、自分の物って買ってなかったよな?」 「え? ……うん。別に、欲しい物もなかったし」 微苦笑で肩をすくめる日和に、英知はため息をついた。 そして、カバンの中で手に触れていた小さな包みを取り出して、立ち上がるなりそれを乱暴に日和に握らせた。 「ったく、お前ってばよ」 「──え?」 手のひらに残された包みを見て、目を見開く。 「三日目の夜、岩崎たちと夜中に旅館を抜け出してさぁ……って、これは先生には内緒な。ほら、お前、こういうの好きだろ? ったって、見なくちゃわかんねぇよな」 戸惑う日和に、英知はアゴで開けて見ろと促す。 ためらいながらも包みを開けた日和は、中を覗いてあっと小さく声を上げた。 中身を手のひらに出し、英知を見上げる。 それは、ハトをかたどったシルバーのペンダントだった。 「かわいい……どうしたの?」
/175ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加