第一章 起原

7/17
前へ
/233ページ
次へ
……陸斗…変だな。 秋吉は背中を丸めて座っている陸斗の隣に座った。 「本当に具合悪いなら、早目に病院に行に行こう。陸斗はいつもギリギリまで我慢するからな……」 言いながらそっと肩に手を置いた。 陸斗の胸は、大きな音を立てて鳴っていた。 秋吉さんを心配させては駄目だ。 「ホントに……大丈夫だから。眠かっただけ。変な…怖い夢見ていたんだ。だからちょっと動揺してるけど……大丈夫だよ」 「本当そうか?」 「うん」 陸斗は無理矢理作り笑いをした。笑って小さい深呼吸を一つした。 秋吉は陸斗が無理に笑っている事が分かっていた。 我慢強い陸斗が以前に風邪をこじらせ倒れたこともあった。その時の陸斗の様子に自分が気が付かなかった事に、後々まで後悔した。 けれども、陸斗にとって踏ん張り時な事も感じていた。 何か…隠してる……まあいい。そのうちに言ってくれるだろう。陸斗ももう子供じゃあない……。 「そうか、分かったよ」 言いながら、秋吉は陸斗がテーブルの上に散らかしていたファンレターを手早く紙袋に仕舞った。 「大丈夫なら行こうか。タクシーの中で少し眠ったらいい」 「そうするよ」 陸斗の返事に軽く頷き、秋吉は大きな荷物とファンレターの入った紙袋を持ち、楽屋のドアを開けた。 「行くぞ」 「うん」 立ち上がった陸斗の手の震えはいつの間にか止まっていた。 右手に持っていた《お守り》を上着のポケットに押し込め、鏡台の鏡を覗く。 鏡の中には青ざめた自分の顔があった。 ……酷い顔だな。 溜息をついた。持っていたタオルを握りしめ、秋吉の後を追って楽屋を出た。
/233ページ

最初のコメントを投稿しよう!

97人が本棚に入れています
本棚に追加