第一章 起原

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「じゃあ、ちょっと行ってくる。頼むからしっかりしてくれよ」 言って秋吉は扉を開け、身体半分廊下に出た。 「やっぱり、俺も一緒に挨拶に行くよ」 秋吉が声に振り向くと、陸斗がゆっくりと立ち上がった。けれど、立ち上がったと同時に鏡台に手を付いてそのまま動かなかった。 具合が悪いのか? 秋吉は半開きになっていたドアを閉めた。陸斗に近付きもう一度椅子に座らせた。 「一人で行くからいいよ。それより大丈夫か?」 「う…ん」 本当はまだふらついていた。 「じゃあ戻ったら直ぐに出られるように支度しておいて。タクシーの中で少しだけど休め」 陸斗は黙って小さく頷いた。 秋吉は陸斗の肩をポンと叩き、腕時計を見ながら再度扉を開くと、小走りに楽屋から出ていった。 陸斗は秋吉の背中をぼんやりと見送った。 秋吉を待っている間、携帯電話でメールチェックやブログを書いていた。陸斗の事を急がせた秋吉はなかなか戻ってこなかった。 遅いなぁ…秋吉さん。 体を起こしているのが辛くなり、横になろうとして楽屋にあったソファーを見た。ソファーの足元にファンレターの入っている紙袋を見付けた。事務所に届いたのを秋吉が持ってきたようだ。 紙袋を引き寄せ、ソファーの側のテーブルの上に置き座った。 陸斗はファンレターを見るのが好きだった。勿論、ブログへコメントされた書き込みも読んでいた。携帯電話で手軽に読めるし書ける便利だとは思っていたが、手紙は自分に対しての深い想いを感じる事が出来た。 〈陸斗くん、こんにちは。いつも観てます!今日もカッコイイです!!〉 〈相河クン大好きです!頑張ってね!応援しています〉 ファンレターを見ていると、自然と笑顔になった。 手紙の相手がどんな人なのか、考えながら読むのが好きだった。 一通また一通と、陸斗はテーブル一杯にファンレターを広げていた。 せっかく秋吉さんが片付けたのに、これじゃあまた怒られちゃうかな。 思いながらも、また一通手にとった。その封筒が膨らんでいる事に気が付いた。開けて中の物を引き出した。 お守り……?なんで? 寝ながら読んでいた陸斗は、身体を起こしてきちんとソファーに座り直した。 お守りが入っていたは、薄紅の桜色をした封筒だった。宛先は女性らしい綺麗な文字で書かれていた。 中の手紙を出してみた。 手紙も繊細な女性らしい文字だった。
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