染まる夢

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染まる夢

 赤い記憶。    炎の赤。  血の赤。  ……瞳の赤。        真夜中に飛び起きて手洗いに駆け込み、盛大に嘔吐くのは久しぶりだった。  夕食はつついた程度にしか食べていないのに、身体は腹の内側のものをすべて排出しようと力をこめる。  ようやく衝動が収まり、ひどい疲労感と曖昧な意識をかかえたまま手洗いを出た頃には、眠気などとうにどこかへ行ってしまっていた。      壁にもたれて廊下に座ると、窓の外をなんとはなしに眺める。黒く染められた空に浮かぶ月は、冴えた光を放っていた。      うつむけばはらりと視界に入る、紅の髪。      ……私の見る夢は、いつも赤い。  私を支配する記憶は、あらゆる紅に染まりきっている。  どこを見ても、なにをしても、その色を拭うことなどできはしなかった。  侵食する赤を手放すことは、彼の生存を諦めることだったから。        でもいつか、別の色に染まる日は来るのだろうか。      眦から溢れる夢想を振り切るように、瞼を閉じる。  その裏側すら、いまだ真紅に彩られて、私を縛り続ける。
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