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「……」
優は喉の奥に溜った言葉を飲み込む。
初めて、新井が優に声を掛けてきた時は好印象だったのだ。
明るくて前向きで、でも自分勝手な男だが、優はそんな自由に生きる新井に憧れてもいた。
でも嫌いなのは余計な一言が多い事。
それがなければ友人として憧れ、好きになっていたのかもしれない。
新井が嫌いで、そして羨ましかった。
自分には出来ない。
自由気ままに…、生きたくても勉強やら何やらで親の言葉に束縛される。
―お姉ちゃんはこんなに頭いいのに…―
優には成人した姉がいる。綺麗で礼儀正しくて、頭もいい。
昔から比べられていた。
けれどそんな姉は偽物だった。
仮面をつけていた。
癖なのか、昔から親や他人の前では優等生を演じていた。
親が理想とする子供を、演じていた。
姉の本当の顔をしっているのは優だけ。
優にだけに姉は本当の顔を見せる。姉にとって優は唯一の心の拠り所でもあるのだ。
姉は優しい。
優しいけどおせっかい。
けれど、そのおせっかいは嫌いではなかった。
視線を上げると新井は女子数人に囲まれてケラケラ下品な話しながら笑っている。
何故か無性に苛立ちを覚えた。
それが何かはわからない。ただ、思ったのは、当たり前のように楽しく学園生活を送っているという事。
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