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次第に、その視線に負けて重い頭をゆっくりと上げて
体を細い腕で支えながら上半身だけ起き上がる
「すみません、動けないもので」
グッと腹に力を込めて 頭の痛みに眉を歪めながら情けなさに笑うと
身なりのいいその男は
「これを飲むといい、少しは良くなるでしょう」
と 中指くらいの長さの瓶を
男の手に握らせた
「変な薬ではないので、大丈夫ですよ」
私、医者なんです と緩く微笑む姿に
不思議と一瞬痛みが和らぐのを感じれば
いつの間にか男は
自分と同じ様に細くみえる相手の腕に支えられ
その場に座り込む状態になっていた
自称、医者とゆう相手に握らされた薬を半信半疑で見つめ
握ったり、瓶を摘んでみたりしながらも
早くこの症状から解放されたい気持ちが押して勝ち、ゆっくりと蓋をあけ血色のあまり良くない唇にそえると
少しずつ白い喉元を揺らしながら瓶の中身を飲み下した
時折 薬剤独特の苦味にむせながらも
医者だとゆう相手の話に 頷く
名前はクローとゆうその医者は
暖かみのある笑みを絶やさず話を進めた
「おっと...私はそろそろ行かなければ。彼女にお会いするなら、扉は2番目のを行くといいですよ。」
雇い主から追い出され 徘徊しているうちに見知らぬ屋敷の前に倒れていた男からすれば
薬とクローの親切は有り難かったに違いないが
彼女とは誰のことか
ましてや、扉の話など
頭上にはてなが浮かんだ
その場に立ち上がり
軽く頭を下げて去って行くクローに
何か言わなければと
ふらつく足で立ち上がり
前にそのまま倒れ込みそうになりながらも、爪先に力を入れてなんとか深く礼をした
「また、明日」
特徴のある 優しい微笑みと同時に向けられたその言葉に
耳を疑う
明日だなんて
自分には金もなければ
雇い主もなく、家も家族もないのに
「体..楽になったかもしれない」
相手の乗った馬車を見送りながら
薬の瓶を握りしめ、少し良くなった頭痛に自然と笑みが零れそうになったのを感じて
笑える状況じゃないのに、そう呟いてから
自分の身の振り方について動く様になった脳みそで考え込む男には
屋敷の奥からのいくつかの視線も
屋敷の扉を開け にこにこと駆け寄ってくる人影にも
馬車に揺られながら口端をにたっと微かに上げ笑うクローにさえ
気付く余裕などなかった
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