婚約と脱線の一歩

7/7
1725人が本棚に入れています
本棚に追加
/161ページ
電話を切った後も胸がドキドキしている。 しばらくボーっとした後、現実に戻り、 明日何を着て行こう、 立ち上がりクローゼットを開けた時、 彼からの電話が鳴った。 毎晩必ず来る電話。 でも今日は上の空で彼の話が耳に入らない。 心ここにあらずの状態で会話をしていると、 「美絵なにかあった?」 いつもと違う私の様子に不安そうに彼が聞く。 「ううん、今日はちょっと仕事疲れちゃって…。」? 「なんだぁ、なら早く言えって~。 今日はもう早く寝るんだぞ。」 「うん、ありがと。 あ、あのね、明日久美とご飯行くから夜いないけど。」 「了~解。 心配だから帰ったら一応電話入れるんだぞ。」 「うん、じゃ、おやすみ。」 「愛してるよ、美絵。 おやすみ。」 「ありがと。じゃ…。」 彼は電話を切るとき必ず、「愛してるよ」と言う。 私は「愛してる」とか「好き」とか言葉に出すのが恥ずかしくて、 いつも「ありがと」と返してごまかす。 とにかく優しい彼。 これ以上、私を愛してくれる人はこの先いないだろうと、 まだ若干二十歳ながら確信していた。 明日が楽しみな気持ちと、 彼への罪悪感が交差する中、 その日は、いつの間にか眠りについた。
/161ページ

最初のコメントを投稿しよう!