プロローグ

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そして、彼は眠りについた。もう二度と眼を醒まさないという事は重々承知していた。だけど、別れを告げる言葉は互いに言わなかった。私はお礼を言って、彼もお礼を言ってきた。それが、彼の最後の言葉だった。  彼が眠りについた瞬間、彼がもう動かなくなった瞬間、意識していないのに勝手に涙が溢れてきた。この事実を知った時から、最後は泣かないで見届けようと思ったのに、今は泣いている。固く決意した筈なのに、今じゃこの様。大粒の涙が幾つも彼の頬に落ち、彼が泣いている様にも見えた。でも、彼は最後まで私に泣き顔を見せてくれなかった。弱い部分は見せても、決して泣きついてこなかった。これだけは少し残念だったかもしれない。 「…………………」  彼の凄く安心した様な、そして子供の様な顔にゆっくりと指を伝わらせる。男の子にしては、肌がすべすべで気持ち良かった。今思うと、彼の肌に触れたのはあの時が最初で最後だったかもしれない。 「………………」  凄い残念だ。でも、だからこそ良いのかも、と思う。 「……ありがとう。おつかれさま。おやすみなさい」  たくさんの感謝の想いをこの言葉に込める。 ―――――――
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