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男は逆さにのぞき込んでいた体を返すため、ふわっと宙を回り、地に足を向ける。
樹と向かい合った形になった。
「…しかもタイミングもワリぃんだよ。何で名前呼んだときに一発で出てこねぇかな…」
ハァ…とため息をつく。
『たいみ…??何のことだそれは??』
首を傾げる男。
まるで時代劇に出てくるような、すらっとした薄い青の着物を着ている。
長い黒髪を高く束ね、分けられた前髪からは若い男の顔がのぞいていた。
…明らかに小学生の自分よりは年上だろう。
『……??どうした、樹??』
ふわり、と覗き込まれ、声をかけられる。
「え??いや……ちょっと気になったんだけどさ。お前って何歳??」
目の前の男、慎之介に訪ねる。
『ん…そうだなぁ…。そういえば歳なんぞ、ここ数百年かぞえておらんなぁ~』
なんてしみじみと言う慎之介。
…………ですよね。
その理由はいたって簡単。
何年生きてるか分からない、
それ程長い時を生きてきたから…。
『まぁ、姿自体は死んだ時のままらしいからなっ‼見た目はおそらく17だろう‼なんとまぁ不思議なものだな‼はっはっは‼』
明るく笑う慎之介。
「はっはっは…って」
いつもも明るい慎之介。
いつもこんな感じで渋るオレ。
何でも聞ける。
何でも話せる。
いつの間にかそんな仲になっていた。
(こいつに出会って…そろそろ一ヶ月になるのか…)
――――時をさかのぼること数百年。
代々良家の家臣として働いていた家系に生まれた慎之介は、
ある日主人の一人娘である姫に恋をした。
次第に姫も慎之介を想うようになり、二人は隠れて逢瀬をかさねていた。
ところが、あるきっかけにより主人に二人の関係はバレてしまう。
慎之介は姫に想いを申し立てすることもできぬまま、実際に逢瀬を目撃され、主人の手で刺し殺された。
それも……愛する姫の目の前で。
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