1.慎之介

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. 男は逆さにのぞき込んでいた体を返すため、ふわっと宙を回り、地に足を向ける。 樹と向かい合った形になった。 「…しかもタイミングもワリぃんだよ。何で名前呼んだときに一発で出てこねぇかな…」 ハァ…とため息をつく。 『たいみ…??何のことだそれは??』 首を傾げる男。 まるで時代劇に出てくるような、すらっとした薄い青の着物を着ている。 長い黒髪を高く束ね、分けられた前髪からは若い男の顔がのぞいていた。 …明らかに小学生の自分よりは年上だろう。 『……??どうした、樹??』 ふわり、と覗き込まれ、声をかけられる。 「え??いや……ちょっと気になったんだけどさ。お前って何歳??」 目の前の男、慎之介に訪ねる。 『ん…そうだなぁ…。そういえば歳なんぞ、ここ数百年かぞえておらんなぁ~』 なんてしみじみと言う慎之介。 …………ですよね。 その理由はいたって簡単。 何年生きてるか分からない、 それ程長い時を生きてきたから…。 『まぁ、姿自体は死んだ時のままらしいからなっ‼見た目はおそらく17だろう‼なんとまぁ不思議なものだな‼はっはっは‼』 明るく笑う慎之介。 「はっはっは…って」 いつもも明るい慎之介。 いつもこんな感じで渋るオレ。 何でも聞ける。 何でも話せる。 いつの間にかそんな仲になっていた。 (こいつに出会って…そろそろ一ヶ月になるのか…) ――――時をさかのぼること数百年。 代々良家の家臣として働いていた家系に生まれた慎之介は、 ある日主人の一人娘である姫に恋をした。 次第に姫も慎之介を想うようになり、二人は隠れて逢瀬をかさねていた。 ところが、あるきっかけにより主人に二人の関係はバレてしまう。 慎之介は姫に想いを申し立てすることもできぬまま、実際に逢瀬を目撃され、主人の手で刺し殺された。 それも……愛する姫の目の前で。
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