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首を振った綾斗さんは私の疑問をなかったことにしたように思える。きっと私から質問しても何も答えてくれないんだろう。
だけど…でも、
美「綾斗さんは何を…知っているんですか?」
そんな悲しそうな顔を見たら黙っていられない。
綾「…余計な事を言って申し訳ありません。美沙姫様はお気になさらず。美沙姫様のお時間を取らせて…」
美「どうして」
二度も謝らせたいしない。戸惑った顔を見上げ前から思っていた疑問を告げる。
美「どうしてあたしのこと名前で呼ぶんですか」
突然話が逸れた。驚いているのか困っているのか分からないけれど、そう思ってるのが分かった。
美「執事って一人主人を決めたら旦那様とか、お嬢様とか、そういう感じで呼ぶものでしょう?や、呼ばれたいって訳でもないんですけど…ずっと不思議で」
他の家ではどうなのか分からないけれど、少なくともあたしの家、姫野ではそうだった。
だから名前を呼ばれる事は少なく、身内間でしか名前は必要の無いもの。
綾「美沙姫様がそう呼ばれるのを好んでいらっしゃらない様でしたので」
美「一度も呼ばれたことないのにどうして分かるんですか?」
綾「…学園長から窺っておりましたので」
微笑んだ彼が切なく写ったのは何故だろう。
とても胸が締め付けられたのは、何故だろう。
美「…そうですよね。ごめんなさい、責めてるつもりじゃないんです」
綾「いえ、美沙姫様が謝るなど…!私の事はどうかお気になさらず、体育祭のことをお考えください」
美「…はい」
頭に走る鈍い痛みも、疑問も振り切るように数回頷いた。
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