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綾「体育祭の練習はいかがですか?」
穏やかな声色で紅茶を注いでくれるのは綾斗さん。色とりどりの花が見渡せるラウンジには他の生徒の姿はなく、やけにしんとしている。
体育祭まで後一週間というあるお昼休み、綾斗さんからのお誘いだった。
美「楽しいです。不安もあるんですけどね」
スコーンやらクッキーやらも次々に並んで行く様に目を輝かせる。これも全部手作りなんてすごいなあ…。
綾斗さんも一緒にいかがですか?と口にするも恐縮です、と断られてしまった。残念。
何かを口にするところをあたしは見ていないのだ。そこまで徹底しなくても良いのに。
綾「美沙気様ならどんな競技でもご活躍されるでしょうね。借り物も私が全力でご協力させていただきます」
美「それはかなり頼もしいですけど」
万が一にでも"バナナを食べながら猿真似"はさせられない。見てみたい気もするけど。
もしそういう系統が当たったら葉を連れて行こう。
美「もし"執事"って書いてたらよろしくお願いしますね」
そう言ってクッキーを頬張ったあたしにお手拭きを差し出してくれる。
笑顔で頷いた彼は一転して眉を下げた。
綾「…美沙気様、差し出がましい事とは思いますが…最近お元気が無いようにお見受けします。何か、私にお力になれることはございませんか?」
思わぬ申し出に瞬きを繰り返す。みんなからはいつもより元気だね、と言われてたぐらいだった。
美「そう…、見えましたか?」
だとしたら最近、とはいつ頃から思っていたのだろう。
下がったままの眉は切なげに眉間に皺を寄せる。
もしかしたら、あの時からずっと気づいていたのだろうか。本家へ戻った時から。
綾斗さんが静かに頷く。
それを聞いてあたしは少しだけ、嬉しく思った。絶対、気づかれることは無いと思ったのに、と。
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