5980人が本棚に入れています
本棚に追加
佐渡凛に少し不審そうな顔をされ帰宅、和風パスタを作ってくれていたらしい。コックも唸る腕前に感嘆。
早めにお風呂にも入ったあと再び綾斗さんがやってきて、カモミールティーを佐渡凛と一緒に頂いた。あたしと佐渡凛はソファに座っていたけれど、綾斗さんは決して座らなかった。
それが少し悲しくて、でも頑なな彼の意思を折ることは出来なかった。
また、夢を見た。
幼い時のあたしが、シロツメクサの中遊んでいる夢。
あたしはよく花冠を作ったり、クローバーを探したりしていた。けれどこの日は、ひなたで寝っ転がって彼と話をしていた。
ワンピースを汚してしまっても、お母さんたちは怒らなかった。いつも「今日もたくさん遊んだのね」と優しく頭を撫でてくれる。
その代わりにあたしをいつも怒るのはおじいさまだった。
眉間に皺が寄っていてお顔がこわくて、無口で、優しいお父さんと空海叔父さんのお父さんということが信じられない。
この日も、お勉強中にやって来て、『もっと姫野の令嬢という自覚を持ちなさい』と睨まれたあとだった。
軽い反抗心からまた逃げ出したら廊下で会った"風間"が心配して着いてきてくれた。
何も言わずに隣に座った彼は空を見上げて微笑んでいる。そんな表情を見てふてくされた顔のままでぼそっと呟く。
『あたし、お嬢様って、嫌い』
『どうして?』
いつも取りこぼすことなくあたしの言葉を掬い取ってくれるのが嬉しくて、たまに小声で話したりもした。
『…お嬢様って名前じゃないもん、みんな、姫野の娘にしか興味ないんだよ』
頬を膨らませながら揺らめくシロツメクサを指で弾くと、また緩やかな風が吹いてすぐに元に戻る。
こんなに気持ちのいい日にこんな気持ちでいることが嫌だった。
最初のコメントを投稿しよう!