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『……ごめんね、今の忘れて』
そうあたしが眉をハの字にすると不思議そうに首を傾げられる。真っ黒な彼の髪がサラッと流れる。
『だって、こんな事言ったらまたおじいさまに怒られるもん。もっと自覚を持ちなさい、って』
すると同じように原っぱに寝転んだ彼はシロツメクサの間から朗らかな笑みを浮かべる。
ゆっくりと人差し指を口元に持って行って口を開いた。
『…じゃあ、僕が秘密にしといてあげる。でも、僕には言っていいよ』
『…え?』
『僕は今日、今から絶対にお嬢様って言わないし、今のはーーーにも秘密にする。約束』
『ほんと?ほんとにほんと?』
バッと仰向けに寝ていた体勢をひっくり返して、彼を上から見下ろす。
変わらず笑顔で頷いたあと、立てていた指を人差し指から小指に入れ替えた。
『ほんとにほんと。絶対に絶対。美沙姫ちゃんは美沙姫ちゃんで、僕の友達、だからまた思ってること全部話して?約束』
差し出された指にそっと小指を絡ませる。
日向の暖かさとはまた違った温もりに、偽りのない優しさが見えた。
『…ありがとう、ーーー、約束…』
家族以外のその言葉がどれだけ嬉しくて、助けになったか、彼は知らないんだろう。
執事になった時、感情の見えない声で彼は呼んだのだ。
『ーーー今日から"お嬢様"にお使えすることになりました』
…うそつき。約束したのにね。
ーーーーーーーーー
凛「おい、姫野、起きろ9時だ」
困ったような落ち着かないような声が出た。
寝ている姿を見ていられなかった、というのは言う必要のないことだった。
やけに、苦しそうに見えた。
美「…9時!?遅刻!」
ガバッと起きた拍子にかかっていたブランケットがソファから落ちて、凛は露わになった脚からそれとなく目を逸らした。
そのせいもあり、一瞬、ほんの一瞬だけ眉を潜めた美沙姫に凛は気がつかなかった。
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