第十九章

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凛『はあ…姫野がどうかしたんですか』 綾『…いえ、そういうわけでは無いのですが』 姫野がいなくなった時、この人はどこへいたのだろう。 そもそも姫野がいなかったことは知っているのだろうか。 その疑問を投げかけることが何故か出来なくて、焦燥の滲み出た表情が新鮮で凛はつい頷いてしまった。 凛『いいですけど、俺より綾斗さんの方が気付くんじゃないですか』 綾『…私がお側にいると、美沙姫様のお心が休まらないと思いますので』 凛『執事なのにですか』 綾『執事だからですよ』 よく分からないことを言う。綾斗さんも、姫野も。やっぱり金持ちの世界は面倒だ。 綾『どうか、お願いします』 こんな一般家庭出の年下にまで頭を下げる執事というものはどこから忠誠心が出るのだろうか。 二人はこの学園に来て初めて会ったと言っていた。自分だったら、いくら財閥の娘だろうと会って間もない人間に尽くすなんてしたくない。 そんな姿が滑稽とまで思ってしまう。 もしくは、そこまでの忠誠心は無いのだろうか。だとすればこの姫野との微妙な距離感にも納得がいくが、本人の感情なんて知った事ではない。 どっちにしろ、関係ない事だが。 ーーーーー 美「ちょっと大丈夫?」 難しい顔してる、と顔を覗き込めばふいっと顔を逸らされた。あからさまに嫌そうな顔するのやめて! 凛「うるさい寝ろ」 美「理不尽!」 一度目が覚めてしまったからすぐには寝付けそうにない。多少くだらなくても返事をしてくれるようになってきたこの頃、世間話くらいなら怒られまいともう一度ソファに座りなおす。 美「体育祭楽しみだねえ」 凛「いや別に」 美「え、楽しみじゃないの?暑いの嫌いだから?」 暑いのが嫌いだというのは最近知ったことである。もちろんソースは凰です。 凛「暑いのも、暑苦しいのも、だ」 そ、それは気温の問題じゃない方なんじゃ…。 練習の時、自分の出番では目覚ましい成果を挙げつつもその他の時間は無駄に口を開かず、先輩に話しかけられても「はあ」とか「そうですね」とか「どうも」しか喋ってるのを聞かない。
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