第十九章

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ただ、世間一般でいう普通の生活が出来ているという喜び。男子校っていうのは普通とは言わないだろうけども、あたしから言わせてみれば、"姫野"よりは普通なのだ。 だから例え束の間でも。この普通を壊したくはない。 『初めまして、姫野美沙姫さん』 ……例え、決められた未来があったとしても。 目を伏せた瞬間、携帯が鳴り響く。 美「っわ…もしもし!」 突然のことに画面も見ずに耳を当てると、はあ、と溜息が聞こえる。こ、の、溜息は。 風『お嬢様、今の電話の受け取り方はどうかと思います。もっと余裕を持って、落ち着きを払って下さい』 美「……何のご用かしら、風間」 嫌味ったらしい一言目に口元が引きつる。 オホホホホとでも高笑いしてあげようかななんて思ったけど結局面倒なことになりそうだからやめておこう。無念。 風『いえ、お嬢様の事ですから、そろそろ問題を起こしているかと思いまして』 美「起こしてないわよ!たった一週間しか経ってないでしょ!」 風『そうですかそれは何より。では冗談はこの程度にしておきます』 絶対本気だったでしょうよ。そういうところは変わらないから困る。 変わるなら一層の事全部変わってしまえば思い出すこともないのに。 では、と前置きをする彼に嫌な予感がする。 風『"あの方"と連絡は取られましたか』 美「……どうせ知ってるくせに聞く必要無いでしょう」 一気に何もかもが冷える。 空気も、声も目つきも。 風『積極的に取るように、とお願い致しましたが』 美「そうね聞いたわ」 耳がタコになるくらいにね。 この言葉、小さい頃に本当にタコになるって泣いて風間に泣きついたことがあったっけ。 そんなことを思い出してしまって口に出しはしなかった。 本当、嫌になる。
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