第十九章

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美「最低でいつまで」 風「そうですね、3日でしょうか」 美「そう、なら3日後には戻るわ」 風「…ええ。今日は旦那様と夕食を取るようにと」 ベッドから降りて用意された服を手にする。 黒い襟の付いたグレーのワンピース。裾と袖にレースが重ねられ、まとわりつくのが予想できる。 美「相変わらず動きにくそうな服」 風「動きやすさよりも落ち着きを意識して頂きたいものです。お支度が済みましたらお呼び下さいね」 静かに部屋を出た風間は夕食の準備の確認へ行ったのだろう。この後のことを思うと自然とため息が出る。外はまだ雨が続いていた。 体型が変わってないのか、変わってもなおそれさえも知っているのか。寸分の狂いもなくぴったりなそれに重い枷をかけられた気持ちになる。 ドレッサーの前に座って櫛を手にするとノックがされる。 「美沙姫お嬢様、失礼致します。風間様から身支度をお手伝いする様にと」 美「…ありがとう」 2人の使用人が頭を下げて部屋へ静々と入ってきた。 準備くらい1人でできると言いたいところだけど、彼女達の仕事を奪うわけにもいかず甘んじる。しかも2人とも昔から姫野に仕えていて信頼できる女性だった。ここでこの人達に頼むあたり風間は有能だ。断れないのを知っていて、本当に。 因みに姫野家には使用人が何人いるのかよく分かっていない。 以前ここにいた時は100人程だったが、あたしたち家族がいなくなってもなお、減っていないように見える。 お祖父様は仕えている彼女たちを名前でなく使用人と呼ぶのだが、あたしはそれが好きではない。 それを前に一人に尋ねてみたところ「私達は姫野に仕えさせて頂けるだけで光栄なことなのです」と模範回答のような答えが返ってきて、少し悲しくなった。 その比較的仲の良かった使用人と話していたときも、彼女は知らないところでお叱りを受けていた様だった。 それ以来彼女たちに深く関わることもなくなり、名前を知っていても、あたしが家族以外で公に名前を呼ぶのは風間しかいない。
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