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―――少年の胸を影が貫き、ポタリとそれを伝わった赤い血が地面に落ちた。
「人間風情が! よくも私に傷を―――」
「――だ―――てき―――だ」
何処からともなく蠢く闇が再び生まれ、それが集まり人を形作る。
闇が消え、現れたのはスーツをきた男。
全ての光を飲み込む漆黒の髪と瞳、それとは対称的に病的なまでに白い肌。
白い手袋を着けた左手は顔に当てられ、その指の間から見える右目の部分は重度の火傷が見えた。
「ガッ―――」
男は残った右手で少年の首を締め上げ、少年ね身体を持ち上げる。
「楽には殺さん、少しずつ自分の命が削られていくのを感じ、恐怖しろっ!!」
男の影が刃となり少年の身体を貫いて行く。
男は言葉通り少年を嬲り殺すためその全てが急所を外れておいる。
その目に宿るのは憤怒の炎。だから男は気が付かない。
身を焦がす怒りが、自分の優位を信じきる油断が、少年の僅かな動作を気が付かせない。
「―――だ」
蚊の鳴くような声。
そんな弱々しい声に男は嬉しそうに笑う。
「なんだ。遺言か? 命乞いか? 命乞いなら聞いてやろう」
もっとも聞くだけだがな。とは声にせず、命を弄ぶことに愉悦を感じ、歪んだ笑みを浮かべる。
そして今、締め付けている手を緩めるのも、不屈の意志を持った少年が折れるところが見たいためだった。
「先程の言葉をもう一度言うぞ―――油断大敵だ」
だが少年の眼からは光は失われておらず、返って来た言葉は男が望んだものとは正反対の言葉だった。
「なっ―――Gaaaaaaaa」
その言葉を聞いた男が異質な魔力に気付いた瞬間、飛来した剣が男の腕を肘から切断する。
それを皮切りに剣の軍勢が男を串刺しにし、同時に少年を突き刺していた影の刃を砕く。
支えを全て失った少年は受け身も取れずに地面へと叩き付けられる。
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