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――――――。
日がかなり傾いてきた頃。
潮が満ち始める。
来た時の砂浜と波の姿はもうそこにはない。
砂浜は冷静さを取り戻し、人肌に心地よい温度で、帰る海水浴客たちを見送る。波もまた、いっそう穏やかになり、砂浜に甘えるように優しく波音を立てていた。
風子たちは一足先に帰宅し、辺りは夜に向けて静けさを取り戻し始めている。
砂の城は、波にさらわれて本来の姿に戻っていく。
「せっかくつくったのに…」
汐が少し悲しい顔を見せて呟いた。
「在るべき場所に、還えしてあげましょうね」
渚は諭すように、汐をなだめた。砂は尚も還り続ける。
「……」
朋也は、話しておくべきだと思っていた。否、知ってほしかったのだ。
その気持ちは、朋也の口を動かすには十分な原動力だった。
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