冷たさが沁みる

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「体調はどう?」 「ん?ああ、全然問題無いんよ。1日寝て体が鈍ってるくれえだ」 「…そう。良かった」 「…お前のせいじゃねえ」 「…うん」 「また明日、今度はアンナも一緒に星見に行こうぜ!」 「そうね…。暇があったらね」 「じゃあ暇をつくれ」 「ははっ。何だよそれ、それじゃあ暇って言わないじゃないか」 「うぇへへっ!約束だ!」 「…葉も元気なようだし安心したよ。僕はもうそろそろ帰るね」 「もうか?晩飯食ってけば良いのに…」 「また今度にするよ。ゆっくり休んでね」 「おう!また明日な!」 「うん。アンナ、今日はありがとう」 「…別に」 「はははιじゃあ」 冷たいのは彼女なりの照れ隠しだろう。こんな一面もあるんだなんて知らなかったから、少し可愛いと思った。 「はあ…」 暖かい家族の空気に触れた後の冷たい風は僕を現実に戻した。 これから家に帰るのかと思うと気が重い。 僕は世に言う坊っちゃんだ。親はアメリカのロスで大企業を営んでいる。家には専属の世話係と、僕の世話係というお目付け役の父の秘書だけだ。 少し寄り道して帰ろうかなと考えていたら携帯が鳴った。 「ラキストか…」 それは父さんの秘書、僕の世話係からのメールだった。今日は母さん達が帰って来ているから、早く帰って来いとの内容。 まだ窮屈な家も1人ならましだった。なのに親が帰って来るとなると窮屈だった家は更に窮屈になる。 僕は居場所を失うんだ。 今日は一段と帰りたく無いと考えていたのに、もっと帰りたく無くなった。 普通は一秒でも早く帰りたいと思うのが家だろう。 そんな事を考えながらトボトボ歩いていたら、何時の間にか家についていた。 .
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