このまま、このまま

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あれから何度、冷たい水を浴びただろう。徐々に体も冷え、身震がする。 扉の向こうでは楽しそうに笑う声と、出てこいとの言葉の繰り返し。 何で、何でオイラが… 頭が可笑しくなりそうだった。独りぼっちの感覚。一度家族を失った時に感じたあの孤独感。 でも何時もそこにはアンナがいた。 ─ガタンッ 「…ちょ、何すんだよ!」 「…良いから出ていきなさい。目障りよ」 急に大きな物音がしたと思ったら、聞き覚えのある声がした。居る筈のない家族の声。 幻聴かと疑った。 ─キィ… 話し声が聞こえなくなったから静かに扉開けてみた。 そこには幻覚でも何でもなく─ 「…アンナ!!」 「おはよう、葉」 涙が溢れてきた。 何を喋ったら良いか、むしろ話さない方が良いのか分からなくて只ただ声をあげて泣いた。 オイラが泣き終わった後、この顔で教室に行くのは無理だという事になり昼まで屋上でさぼる事になった。昼休みまであと10分と無いが、その間には目の腫れも治まるだろう。それに服も乾かさなきゃだ。 「アンナ、熱は大丈夫なんか?」 「心配されなくてももう大丈夫よ」 「でも顔が少し赤いぞ…」 「葉。あんた、このまま卒業まで苛めを受けるつもり?あんたは何も悪く無いのよ」 「…ハオと関わっていくには必要な試練だからな」 「…何よソレ。あんな男に…!」 「…アンナ、ありがとうな」 「…っ!!」 アンナの涙にもらい泣きしたのかオイラの目からも涙が出た。 アンナのキツい言葉にはこいつなりの思いやりがある。別にハオの事を悪く思っているのでは無く、只オイラの事を思ってくれたからキツい事を言うんだ。 アンナは、支えて行くからあたしの前では強がるな、と言ってくれた。 苛めを受けて良かった、何て可笑しいが、ちょっとそう思った。 .
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