1719人が本棚に入れています
本棚に追加
「第六感? 何を言ってるんだ君は……」
レイスはアーツの言葉など意にも介さないと走って行く。
残されたアーツは頬を伝う冷や汗に疑問を感じつつも、渋々といった様子でレイスに続く。
「いや、とってもイヤーな予感がすんだけどなぁ……」
そして到着。
と同時に、大気すらも揺るがす鋭い怒気が二人に突き刺さった。
「初日から遅刻とは、余程の胆力と見た。そこは褒めてやろう。
だが、けじめはつけんとな」
不敵な笑みを浮かべ立ち塞がる女性。そしてそのまま上体を軽く反らし、大きく息を吸った。
それを見るやいなや、周りの生徒が即座に耳を塞ぐ。
無論アーツ達もその異変に気付きはしたのだが、如何せん情報が少なかった。
そして次の瞬間、
「この……馬鹿者どもがぁ!!」
鼓膜を突き破りかねない程の大音量が襲い掛かった。無警戒だった二人は突如として目の前に出現した“見えない壁”に圧倒され、思わず尻餅をついてしまう。
「ほーら、やっぱりじゃねぇか……」
耳鳴りのする耳を押さえ、片膝を付いた体勢でアーツは溜息をついた。
しかし、その動作は女性教師の怒りを更に掻き立てる。
「おい黒髪! っとこっちは……アーツェラフ!」
羊皮紙で顔を確認し、女教師がアーツの名を呼ぶ。
「へいへーい、耳以外は元気ですよっと」
「点呼ではない! だいたい、点呼だとしてもその返事はなんだ!」
「いや、でも点呼じゃねーんだろ?」
「……ほう。初対面でこの私に喧嘩を売るか。なかなか面白い」
アーツの不遜な物言いに何を感じたか、女教師は途端に溢れ出ていた“何か”を押さえる。その直後、今度は冷たい悪寒がアーツの背を走った。
「っ!」
見えない何かに危機感を感じ、無意識に剣を抜いてしまう。
「アーツ!」
レイスが止める声など、もはや聞こえない。
一瞬でも気を抜けば“殺”られる――!
そんな威圧感を醸し出しながらも、女教師はふと思い付いたように口を開いた。
「さて、アーツェラフ。何か言うべきことはあるか?」
この場で求められる言葉は明らかである。
だが、ほどよい緊張と興奮はアーツの思考レベルを何段階も進化させていた。ただし、間違った方向へ。
「……アンタ、未婚だろ?」
時が止まった。
最初のコメントを投稿しよう!