第Ⅰ譚 ―二人の始まり―

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  帝国での宗教は統一されており、教会はその象徴である。 “弱肉強食”を真とする宗教であり、宗教が国を作ったというよりは、国が宗教を作ったという方が相応しい。 市民からの巨額の税金で建て替えられた内装は豪奢なものとなってはいるが、所々に黒白戦争時代の名残も見られる。 「ったく、どうしてこんなどうでもいいモンに金かけるかね……」   言ってしまえば、アーツは今の帝国の体制があまり好きではない。 それでも騎士になろうと思ったのは、一重に父が騎士団長というのが大きかった。 「注目!」 教会の広間に着いたところで、不意にネフィルが声をあげた。 静かな教会の中に凛とした叫び声が響音し、そして再び静寂。 「これより、この“転移魔方陣”を使う」 “転移魔方陣”……帝国建国以降、続々と発掘されている古代の遺産の一部。 魔方陣とはその一つであり、円の中に模様を書いて様々な効果を発揮するものである。ちなみに、他にも様々な種類があるらしい。 もちろん、アーツとレイスは初見である。 「これが噂の古代の遺産ってやつか……」 「まさか隣町にあるなんて、案外身近なものだったんだね」 二人とも目を見開き、ネフィルの足元に明滅する光の円陣を眺めた。 するとネフィルがパンと手を叩き、魔方陣を食い入るように見ている生徒達へ声を発する。  「ほら、見とれていないでさっさと乗れ! ただでさえ時間が推しているんだぞ!」 最後の言葉は誰に向けられたものなのか……ネフィルがこちらを見たような気がするが、恐らく気のせいだろう。 生徒達はネフィルに従い、ぞろぞろと模様が描かれた円陣の中に入る。 「ハッハッハー、なんか楽しそうじゃねぇか」 「君らしいよ、まったく」 「では、転移を開始する」 ネフィルが懐から何やら象形文字の描かれた札を取り出し、それを魔方陣に落とす。 すると途端に魔方陣に刻まれた模様が翡翠色の光りを発し、教会の中が緑一色に染まった。
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