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「くあぁぁ……ねむ……」
荒野を駆ける一台のバイク。
車体は黒一色であり、大型なもの。
後部はキャリアになっており、土埃で煤けた鞄がくくりつけてある。
バイクを運転する青年は大きな欠伸を一つ、ゴーグルの中の目を眠たげにしばつかせた。
グレーのロングコートを身にまとい、中には黒のシャツに同じく黒のズボン。
皮のエンジニアブーツを履き、腰には皮の太いベルトが巻かれていた。
顔はゴーグルをかけているため、上手く見えないが、ここ、“アースブレイブ”では珍しい黒髪をしていた。
背には時代遅れとも言える、青年の身の丈よりも少し短い大剣が背負われていた。
《ちょっと! しっかり運転してよ!》
「……りょーかい、りょーかい」
突然聞こえてきた、幼い少女のような凛とした声に青年は面倒くさそうに返す。
しかし今は疾走するバイクの上。
そこに少女の姿などない。
《真面目に聞いてよ! これで事故死なんて笑えないんだからね!》
「でぇー丈夫だっつの。この俺が事故るとでも?」
そのまま振り返り、後ろのキャリア──厳密に言うとその下、タイヤの横にくくりつけられた小さな箱へ視線を向ける。
そこからは一匹の黒猫が顔を覗かせていた。
《ちょ! 分かった、分かったから! よそ見運転は止めて!》
「ヘーイヘイ。なら黙って寝てりゃーいいだろ?」
その毛並みは美しく、その金と銀のオッドアイで青年を睨みつけるが、すぐに諦めたように箱の中へと潜り込む。
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