Epsode+0 風の旅人

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《……ねえ? 次はどこに行くの?》 箱に潜ったせいか、くぐもったような声で訊ねた。 訊ねられた青年は襲い来る土埃に、眉を寄せながら答える。 「あ゛ー……決まってねえよ」 《なッ!?》 青年の言葉に驚愕ともとれる声が後ろの箱から聞こえてきた。 《アホ! もう何日まともなおまんま食いっぱぐれてると思ってんだ!》 「平気だっつの。保存食に余裕あるし」 《生魚食べたい! お肉とか! カリカリのご飯じゃなくて柔らかいの!》 キイイイと音を立てて止まるバイク。 不思議そうに顔を出す黒猫の首を掴み、青年は顔の前へと持ち上げる。 「ほーほう? ここで降りたいって? どーぞどーぞ。こっちとしては“無駄な”猫の餌がなくなって楽になるし?」 《はっ!?》 その言葉に黒猫は動きを止める。 こんな何もない荒野に一人で置き去りになどされたら、余命何日になることやら。 そして焦ったように前足をバタつかせる。 《う、嘘にゃ! 保存食も大好きにゃ!》 ふう、と小さく息をつき、手を離してやれば、黒猫は自分で箱の中へと戻る。 それを確認してからエンジンをかけ直した。 「──こうやって走ってりゃいつか着くだろ? “風の吹くまま、気の向くままに”ってな」 《お気楽思考……》 学習したのか、今度は小さな声で呟く。 青年も聞こえはしていたが、とくに気にせずバイクを走らせ続けた。 そして一人と一匹を乗せたバイクは“北の都、ヴェスタバ”へと向かっていた。  
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