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《……ねえ? 次はどこに行くの?》
箱に潜ったせいか、くぐもったような声で訊ねた。
訊ねられた青年は襲い来る土埃に、眉を寄せながら答える。
「あ゛ー……決まってねえよ」
《なッ!?》
青年の言葉に驚愕ともとれる声が後ろの箱から聞こえてきた。
《アホ! もう何日まともなおまんま食いっぱぐれてると思ってんだ!》
「平気だっつの。保存食に余裕あるし」
《生魚食べたい! お肉とか! カリカリのご飯じゃなくて柔らかいの!》
キイイイと音を立てて止まるバイク。
不思議そうに顔を出す黒猫の首を掴み、青年は顔の前へと持ち上げる。
「ほーほう? ここで降りたいって? どーぞどーぞ。こっちとしては“無駄な”猫の餌がなくなって楽になるし?」
《はっ!?》
その言葉に黒猫は動きを止める。
こんな何もない荒野に一人で置き去りになどされたら、余命何日になることやら。
そして焦ったように前足をバタつかせる。
《う、嘘にゃ! 保存食も大好きにゃ!》
ふう、と小さく息をつき、手を離してやれば、黒猫は自分で箱の中へと戻る。
それを確認してからエンジンをかけ直した。
「──こうやって走ってりゃいつか着くだろ? “風の吹くまま、気の向くままに”ってな」
《お気楽思考……》
学習したのか、今度は小さな声で呟く。
青年も聞こえはしていたが、とくに気にせずバイクを走らせ続けた。
そして一人と一匹を乗せたバイクは“北の都、ヴェスタバ”へと向かっていた。
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