紙姫とねずみ

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そんな日々が長く続いたある日、窓の向こうで月が言いました。 「姫、エデンが亡くなってしまいましたよ」 月は青白く光りながら、エデンを見守っていたのです。ですが、姫のことを考えながら歩いている内に、つり橋をふみ外して、そこから落ちて死んでしまったのです。 なんてことでしょう、幸せにと告げたエデンが、もうこの世にはいないのです。姫はどうしてよいかわからず、ただじっと月を見つめました。そんな姫から目をそらして、月はこう言ったのです。 「姫、エデンとは楽園という意味です。そこへ行けば彼のそばにいられるでしょう。お手伝いします、そこへお行きなさい。あなたの幸せは彼と共にあるようだから」 「楽園……」 「太陽に伝えておきます。あすの正午、あなたに光と熱を注ぐようにと」 姫は久しぶりに笑いました。 翌日、姫は晴れやかな空を見て、エデンのことを思いました。近づく正午を心待ちにし、黙って外をながめています。 やがて城の鐘が、正午を告げました。 窓から太陽がのぞき、姫を見つけると、淋しそうな笑顔で言いました。 「姫、どうか幸せに」 「ありがとう」 太陽は力いっぱい光と熱を姫に注ぎました。すると姫が描かれている紙に火が付き、みるみる内に紙を白い灰へと変えてゆきました。 「今行くから待っていて、エデン」 今では焦げた額縁が残っているだけです。 姫はきっとエデンと二人、楽園で幸せに暮らしていることでしょう。 そうであると信じたいものです。
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