名探偵登場

3/6
前へ
/46ページ
次へ
屋敷の門をくぐり、丁寧に手入れされたバラのアーチを抜け、玄関にたどり着く。ドアの取っ手に手を掛け引くと簡単に開いた。鍵が開いている。いつものことだが、先生はなんて無用心なんだと、マナミはため息をついた。 屋敷に入ると、ごてごてと装飾された天井、アールデコ調の階段の手すり、新調されて鮮やかな朱のカーペットが見えた。広間に入って真向かいの壁には大きな絵が掛かっている。絵は油絵で、先生の顔が描かれていた。 実物よりも更にりりしく描かれ、こちらを睨んでいる。目はギロリと光り、瞳は新月直前の三日月のように細く鋭利だった。その瞳にマナミはしばらく見入った。 「何をしているのだね」 天井が高いので、声がよく響く。マナミが驚いて声のほうを見ると、まだニスの輝きを残す深い色のドアが開いて、美しい灰色の猫が歩いてきた。猫は、タキシードを着込み、蝶ネクタイをしっかりと締め、身体に不似合いなほど大きなシルクハットをかぶっていた。 「無断でよそ様の家に忍び込むなんて、レディのすることではニャいですぞ」 猫は、4本足で優雅に歩みより、そして、マナミの前で二本足で直立し、口元を上げ、上品にニッコリと笑った。
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加