掌中の記憶

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結婚を決めてから、何度もいろんな人に喋らされたのだろう。 不自然なほど、彼女の話に無駄はなかった。 彼と知り合ったのは大学3年で行った母校での教育実習。 方々の大学から集まる実習生のほとんどは同級生で、控え室は半分同窓会のような雰囲気になる中、一浪で年上の彼は少し浮いた存在で、そのときは特に親しくなることもなかった。 しかしやがて教員採用試験を無事に突破し、晴れて赴任した先で再会したのが同じ境遇の彼だった。 慣れない職場で互いに励まし合いながら奮闘する日々。 ふたりの距離が縮まるのに時間はかからなかったというわけだ。 そんなごく当たり障りのない馴れ初めを聞きながら、僕が頭の隅で考えていたのは、我ながらずいぶんお節介なことだった。 その男…少しは政志に似ているのかな。
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