零れ落ちゆくもの

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「あったといえばあった…けど。ごめん、なんかうまく言えそうにない」 美央は「そう…」とつぶやいて、しばらく何か言いたそうにしていたが、結局「本当に辞めるの?」とだけ言った。 「まだ辞表は出してないけど、とりあえず今は続けていける気持ちじゃないんだ。いろいろ考えたいことが多すぎて」 「いろいろって?」 「いや、ホントにいろいろ」 「ん…まぁ、他人の人生預かる仕事だから、自分自身が迷いながら続けるのは辛いね。修平がそうしたいのなら一度離れてみればいいのかもしれない」 不明瞭でふがいない自分の言葉たちに対し、さすがに同業者だけあってというべきか、その人柄によるものなのか、彼女のくれた言葉は的確だった。 確かに僕は、いまさら迷っているのだ。 本来ならば高校や大学への進学、そして就職の時に悩んでおくべきだった事柄…自分は将来何になりたいのか、どんな人間になりたいのか、そういう青臭い葛藤があることに、今になって初めて気付いたような顔で立ち止まってしまった。 歩き方が思い出せない。
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