彼女の左手

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「それにしても、みんなオジサンになっちゃったねー。あのやんちゃな安達くんが今や“主任”だってさ。びっくりしちゃったよ」 半歩前を歩いていた彼女が、白いスプリングコートの裾をひるがえして振り返る。 「そうだな、ってゆーか美央、危ないから前向いて歩けよ」 「ほーい」 ニコニコと笑いながら僕に並ぶ横顔は実にあどけなく、初めて出会った7年前からちっとも変わっていない気がする。 お酒が入ると微妙に足元がおぼつかなくなるところも変わらない。 例えば、今僕らの周りにいる見ず知らずの他人全員に彼女の年令と職業を尋ねたとして、27歳の高校教師だと当てられる人はそうそういるまい。 まして、来月、彼女の名字が変わることを予想できる人もいないだろう。 そんな僕の想像を知ってか知らずか、髪をかきあげた彼女の左手薬指に、青白いコンビニのネオンがキラリと反射した。
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