掌中の記憶

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小山美央という同級生と初めて出会った…というか、その存在を認識したのは、大学3年の春のことだ。 なぜそんなまわりくどい言い方をしなければならないかというと、彼女の方は僕のことを1年の時から知ってくれていたそうだから。 基礎演習のクラスが同じで、僕の斜め後ろの席に座っていたらしい。 「“各務”って名字珍しいでしょ?妙に気になっちゃってさ、なんとなくいつも眺めてたんだよね。」 声をかけてくれればよかったのに、と言うと、 「年上っぽく見えたからやめた。ちょっと近寄りがたい感じだったし」 とのことだった。 確かにあの頃の自分を思い返してみれば、休み時間はタバコをふかしながら本を読み、講義や課題にはそれなりに真面目に取り組み、たまに趣味のサークルに顔を出し、あとは適当に寄り道しながら電車で帰る…その繰り返しだった。 同じ高校から来た友達もいたが、学部が違って疎遠になりつつあったし、何よりもともとひとりが苦にならない質なので、そんな日々に特に不満もなかった。 今からしてみれば、合コンのひとつも参加しておけばよかった、とも思う。 ま、苦い思い出を増やすのが関の山だったかもしれないが。
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