掌中の記憶

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「さあ諸君。」 午後の講義開始のチャイムが鳴りおわると同時に教室に現れた教授は、年令の割につやつやした頬をさらに輝かせて、開口一番こう宣った。 「花見に行かないか」 一応疑問型で問い掛けられているのだが、教授の爪先は既に外を向いていたし、僕らゼミ生総勢16名は戸惑いこそすれ、断る理由などどこにもなかった。 こんなに綺麗に晴れた4月の午後を、狭い教室の蛍光灯の下で過ごすなんて不粋な真似は誰だって後免だ。 僕らは立ち上がり、それぞれ外に出る支度を始めた。
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