掌中の記憶

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「あ、あのっ」 教授の後に続いて正門前まできたところで、誰かに呼び止められた。振り返るといかにも人の良さそうな男子学生が困り顔で立っている。 その手には… 「なに?その一万円札」 握り締めた紙幣をこっちに向かって差し出す彼は、僕より頭一つ分小さい。 う~ん。なんだか傍から見たら、僕が白昼堂々カツアゲしてるように見えてしまいそうな構図だ。 「さ、さっき教授が“これで何か買ってこい”って…」 なるほど、宴会の軍資金か。 「えっと…じゃあとりあえず購買部行く?」 僕が協力の意を表明すると、彼はホッとした表情になって手を引っ込めようとした。 そのとき、横から伸びてきた小さな手が、ヒョイと紙幣を奪った。 「私、ケーキが食べたいな」 指先に挟んだ紙幣をひらひらとさせながら、にっこり僕らを見上げた彼女… それが小山美央だった。 ちなみにこの時、彼女の“にっこり”に心まで奪われてしまったのが河野政志…つまり見るからにお人好しで小柄な彼である。
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