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「う、うわぁ────っ!」
鼻先にいたドラゴンが雄叫びとともに翼を広げ浮かび上がった。
爆風でしりもちをつく。
と、勢いあまって手がなんだかよくわからないけどやわらかくってあったかくて幸せなものに触れた。
むぎゅ。
「いたい! なにすんのよ!」
ビンタ一往復半。
その辺で気絶していたらしい、セーラー服姿の女の子が怒りの形相でつかみかかってくる。
「人がいい気持ちで寝てんのにあんた──」
そこまで怒鳴ってようやく目が覚めたようだ。
「ド、ド、ド、ド、ドラゴンッ!?」
それ、さっきもうやったケド。
「なによあれ!」
目をひん剥き、彼女は僕の後ろにすばやく回り込んだ。
ついでに──。
どげしっ!
「ちょ!」
力いっぱい背中をけられ、宙に浮くドラゴンの真下に転がり込む。
その隙に、彼女は僕に背を向け、扉とは反対の方向へ一目散に走り出す。
「ひどっ!」
一瞬送れて、僕も駆け出す。
が、先を行く彼女が、広間の端っこで急停止した。
「なんなのよこれ!」
僕は絶叫する彼女に追いつき、肩越しに足下をのぞき込んだ。
その向こうは断崖壁崖だった。
それだけならまだしも──。
眼下に広がる、広大な森、川、山、海、空。
その大空を飛び回るドラゴンは数え切れない。
「なんなのよこれ……」
さっきとちがい、彼女はほとんど聞こえないようにつぶやいた。
「う、う、う、うしろ!」
僕は彼女の背中にしがみついて叫んだ。
ドラゴンがすぐそばまで来ている。
「うああああああ────!」
すさまじい絶叫。
どちらがバランスを崩したのか、僕ら二人は足を滑らせた。
そこは崖であり、虚空だった。
景色がスローモーションで流れていく。
重力と風圧と恐怖で意識が飛ぶまでの間に、僕は二つのことに気がついた。
ドラゴンの背中に、褐色の肌で耳の長い男が乗っていたこと。
しがみついている女の子が、たぶん同じクラスの子だということ。
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