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「ねえ、シェイド」
土を整えただけの道の上を歩くシャルロットが、その斜め後ろに張り付くシェイドに話し掛ける。
「なんでしょうか?」
風は二人を優しく撫で、その周囲に生い茂る樹々を揺らした。輝く太陽の下で、シェイドは微笑んで聞き返す。
「魔物なんて、出るの?」
彼女がその言葉を口にした瞬間、急に樹々が騒ぎ始める。強風に煽られ、ふらふらと歩くシャルロットは、シェイドの方を向こうともしない。
「出ますよ。基本的には夜だけですが。私は二回ほど見た事がありますが……もう一回見ようとは思いませんね」
「どうしてよ?」
彼女は、相変わらずその表情を見せない。その後ろ姿を見ながら、シェイドはクスクスと笑う。
彼は理解しているのだ。シャルロットが、魔物の存在を恐れていることを。
「どうしてと聞かれましても……初めて見たのは体長2メートルの巨大ナメクジでしたし、二回目は旅人が殺される現場に鉢合わせましたので。お嬢様なら会いたくなりますか?」
シャルロットは結局、何も答えなかった。しかし、その細い身体をガクガクと震わせているのは、遠目に見たとしても明白である。
右手で口許を押さえながらほくそ笑むシェイドは、主との位置関係を変えないまま従った。
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