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「おや、まだ夕刻だというのに……随分閑散としていますね」
シェイドがシャルロットを無理矢理引っ張り、踏み込んだレトの町。まだ真っ赤な夕焼けが町を照らしているような時間帯だというのに、辺りには人っ子一人いなかった。
その状況は不審ではあるが、気に留めるほどの事でもないらしい。シェイドは躊躇いもせずに砂利道を進み、一件の建物の前で立ち止まった。
そこは、二人が宿泊する予定の宿である。
「すいません、開けて頂けませんか? ここに宿泊したいのですが」
返事はない。木製の扉をノックし、押し、引き、蹴り、という行動をとってみるが、何の反応も起こらなかった。
「鍵も閉まっていますね。就寝時間が早いのでしょうか?」
「あんたたち、腕に自信はある?」
人形のようなシャルロットに向け、一方的に話し掛けるシェイド。その二人の背後へ、唐突に人影が現れた。
シャルロットは少し驚いた様子だったが、シェイドの方は特にそんな素振りは見せず、ずっと前から気付いていたように振り返る。
そこに立っていたのは、大剣を持った男勝りの女性だった。夕焼けと同化する赤い短髪を持つ彼女は、白い歯を見せて笑う。
「男の方は強そうだね。山賊退治に付き合う気はないかい?」
「何のために?」
「この町のため……って言いたいところだけどさ。実は、泊まるところがなくてね。野宿するのもヤダし、自警団も全滅らしいのよ。宿屋の主人が、山賊を退治したら泊めてくれるって言うからさ」
つまり、彼女の困り事は、シェイドたちと共通するという訳だ。立場が全く同じなら、断る必要もない。
「受けましょう。私はシェイド、こちらはシャルロットお嬢様」
「私はアベル。感謝するわ」
かくして、よく分からないまま二人は山賊退治に協力することになったのである。
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