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「うっ、聞いてたより多い……30人? 完璧に囲まれた」
「ふむ、見覚えがある顔がちらほらと……気付きますかね」
気付けば、彼らの周囲では複数の山賊たちが武器を構えていた。
彼らの目は殺気で血走っており、明らかに三人を殺すつもりである事が分かる。
しかし、シェイドは全く動揺しない。アベルに忠告したくらいだから、この状況も予測済みだったのだろう。
いや、わざと山賊たちにも聞こえる声量を放ったということは、こういう状況を望んでいたのかもしれない。
「シェイド、あんたにも戦ってもらわないとマズいわ」
「しばらくは様子を見ましょう。こちらから仕掛けるのはリスクが大きい」
シェイドの言葉で、大剣に手を掛けようとしていたアベルは硬直した。
ここまで戦力差があれば、どちらが先手であろうと二人の不利は否めない。しかも、シェイドはシャルロットという人形を背負っているのだ。
アベルが少し疑念を抱き始めた頃にはもう、空から太陽は消えていた。樹々の影も闇に融和し、辺りの風景も少しずつ黒に飲まれてゆく。
「あーっ!」
その時、三人を囲む山賊の中の一人が大声を上げた。暗いせいでよく分からないが、彼はシェイドを指差しているように見える。
その反応に、シェイドは冷たい笑みを浮かべた。
「お前……昼間の……」
「覚えていて下さったんですね。光栄です。私の事が分かるなら、するべき事も理解できますね?」
山賊を諭すように、気持ち悪いくらい丁寧な口調で喋るシェイド。その言葉が終わるのとほぼ同時に、草を掻き分ける音が幾つか響いた。
彼には分かる。昼間会った山賊が、シェイドを恐れて逃げたのだ。
「さて、こう暗くてはやりにくいでしょう。光を灯しますので、少々お待ちを」
その言葉のわずか数秒後、辺りには日輪のごとき眩い輝きが満ち始めた。
一瞬でお互いの姿を確認し合った双方。真っ先に動いたのは、左頬に傷のある山賊だった。
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