お使い

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   その山賊が狙ったのは、女であるアベル――ではなく、荷物を背負った丸腰のシェイドだった。  見るからに勇猛で、剣を構えている彼女よりは、何の戦闘準備も出来ていない彼を狙う方が確実だと思ったのだろう。  その誤りは、すぐに実証される事になるが。 「死ね!」 「おや、誰に言っているのやら」  山賊の得物は鍬、その刃をシェイドに突き立てようと柄を固く握り、振り抜こうとする。  しかし、彼の殺気は急に途絶えた。草の潰れる音と、鍬が地面に落ちる音が鳴り響く。  山賊の額には、一本の銀ナイフ。その刀身を、赤い雫が伝う。 「残念でした。力量を顧みましょうね」  場が一瞬硬直する。血潮を湛えた地面を眺める者の表情は、シェイドを除いて蒼白になっていた。  何が起こったのだろう。それを正確に理解できたのは、冷酷に笑う一人の男だけだ。 「さて、殲滅しましょうか。二度と悪事を働けないように、ね」  シェイドに耳打ちされたアベルは、その身体を小さく震わせる。  彼女の目的は、この山賊を退治する事だった。しかし、シェイドの目的は違う。  彼の目的は、山賊たちを再起不能にする――つまり、彼らを叩きのめす事だ。  その目的に向けての見せしめとして、あの山賊は殺されたのかもしれない。 「では皆さん、貴方たちの溜まり場(アジト)を、綺麗な真紅で飾りましょう」  黒い悪魔の声は、全ての者を戦慄させた。  
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