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「お父様、何か御用ですか?」
一人の少女が、豪奢な部屋の中心でワイングラスを傾ける男に問い掛けた。
壮年の男は、山賊から貴族に転職したのか、と思わせるような無精髭を蓄えている。
驚くほどワイングラスが似合わない太い腕には、凄まじい筋肉と古傷が共存していた。
「来たか、シャルロット。実は、お前にお使いを頼みたくてな」
不作法にワインを飲み干した男は、金髪碧眼の少女に手招きをする。
真っ黒なミニスカートのドレスを纏った彼女は、人形のように整った顔を歪ませながら、言われるがままに近付いてゆく。
「フィレストロの公爵邸から、『時渡りの宝珠』を預かってきてほしい」
男は、ワイングラスを持っていた方の手を少女の肩に置く。少女は不快そうに振り払ったが、男は特に感じ入ることもなさそうだった。
「先方が、お前のことをひどく気に入っててな。お前が行けば、何の問題も起こらない」
「……分かりましたわ。シェイドを連れて行きますが、構いませんわよね?」
「無論。お前のその身体には、傷一つ付いてはいけないからな」
話が纏まったのを確認すると、シャルロットは小走りで部屋から逃げ出す。
その後ろ姿を、男は薄汚れた瞳で見送っていた。
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