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「ふう……すいませんね、アベルさん」
小刻みに震えるアベルに目を向け、シェイドは申し訳なさそうに言う。
呻き声が漏れるこの場所は、目を塞ぎたくなるほど鮮烈な真紅に満ちていた。
「貴方の仕事を奪ってしまいました。私だけ楽しんでしまって、本当に申し訳ない」
この禍々しい紅の海の中で、黒い従者は異端であった。全てが朱に染められた領域の中で、彼の身体だけは本来の色を保っている。
白い手袋にも、黒いスーツにも、一点の濁りもない。返り血を一切浴びていない事が、彼の不気味さを一層際立てた。
何も斬っていない剣を赤く濡らしたアベルは、一人の山賊の前に向かうシェイドを茫然として見つめている。
「貴方たち山賊も、何か事情があってレトの町を襲ったのでしょう。しかし、悪意の籠った破壊と略奪を行う者など、所詮は屑です。次に悪事を働いたなら、私は容赦なく貴方たちを殺します。貴方たちがどこにいても」
常識的に考えれば、彼が言う事は実現不可能だ。逐一彼らを監視することは出来ないし、場所によっては危害を加えることも出来ない。
しかし、山賊は震えていた。この悪魔のような男ならば、本当に自分たちを殺しに来るかもしれない。そんな恐れがあったのだろう。
山賊たちを冷たく見下したシェイドは、アベルの肩を叩いて背を向けた。
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