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「シェイド! バスタオルがないわ!」
「分かりました、今お持ち致します」
すっかり元気になったシャルロットの言葉に、シェイドは素早く反応する。
真っ白なバスタオルを部屋備え付けの風呂場に放り込み、すぐに退散してきた彼を、ソファーに座るアベルが見つめていた。
「本当に二時間で戻るのね……」
「ええ。お嬢様はそういうお方です」
山賊たちを退治し、その旨を町長に報告した三人は、宿屋の部屋でも最上級のスイートルームをあてがわれた。
このスイートルームに村人が泊まる事はまずなく、他の場所から来たVIPを招くためのものらしい。
ここへ入った途端にシャルロットが元気になったため、この場所を彼女も気に入ったのだろう。
「どうしました? 顔色がよろしくないようですが」
「当たり前よ。私、魔物殺しの経験はあるけど、人が死ぬのを見た事がないの。軽くショックだわ」
「そうでしたか。それはそれは、平和な生活をお送りですね」
「あんたは……人、殺してるんでしょ?」
アベルが座るソファーの正面にある椅子へ、シェイドもゆっくり腰掛けた。
薄気味悪い笑みを浮かべ続ける彼に、アベルは問う。
シェイドは、顔面に張り付いた笑みを剥がさぬまま答えた。
「もちろんです」
「どれくらい?」
アベルは矢継ぎ早に問う。どこか我を失ったように、自分の思考から外れた超常的な人物に向けて。
それでもシェイドは、冷徹なほどの静粛を崩さない。
「数え切れないくらいです。お嬢様に危害を加える者は、殆ど殺してきましたから」
「それでも平気なの?」
彼女の問いに、シェイドは笑った。
「平気ならば、従者という仕事を完遂できませんよ」
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