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  「英雄がこんな所で休んだの? こんな何にもない所で?」 「英雄というのは、贅の限りを尽くすような人ではありませんよ。それに、ここは彼らが英雄になる前――即ち、一介の旅人だった時に宿泊した場所ですから」  木製の簡素な小屋の中で、シャルロットは不満そうな声を上げる。歩く度にギシギシと音を立てる小屋など、彼女にとっては身体が休まる環境にはなり得ないのだろう。  対するシェイドは、入り口の東側にある窓から外を眺めながら、両手袋を外していた。 「彼らがいつ頃ここを訪れたのか、細かい事は分かっていません。リステニアの山賊を討伐する時に訪れたそうです」  リステニアとは、レファルス山脈を回り込んだ際に通る街で、工場群のある街として知られている。  ファルシオーヌ英雄譚において、彼らを英雄への道筋に乗せた発端は、リステニアの山賊討伐であるとさえ言われているのだ。  歴史があまり得意ではないシャルロットも、ファルシオーヌ英雄譚は愛読書。数百年前の伝説であるにもかかわらず、今もその勇姿は語り継がれている。 「お嬢様ならご承知の事かと思いますが」  窓から離れたシェイドは、床に座り込んでいた主人に近付いた。ニコニコと不気味な笑みを浮かべる彼は、少し後退りするシャルロットに二の句を告げる。 「この小屋の周辺には、山賊の拠点が多数存在します。この場所は、山賊たちの狩り場ですよ」 「は、早く言いなさいよ! さっさと出るわよ!」  シャルロットは慌てて立ち上がり、シェイドの横を擦り抜けて扉を勢いよく開ける。  その先には、物騒な得物を構えた男達が七人ほど立っていた。  
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