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『人間にもっとも災いを齎すのは、人間だ。』
端末のディスプレイに表示されたその文字を削除し、男はため息をついた。
後ろで結った白髪が揺れ、眉根に皺をよせる。
その険しい顔付きのまま、男の指がキータッチの音を奏でた。
途端に彼が今いる『月第一ドーム・プラトー』の様子がディスプレイに表示される。
月の行政府があるドームなので、チャンネルを変えても暗い廊下に不気味なほど静かに書類を運んでいく職員が映し出されるだけだった。
何の面白みのない映像を切り替えていくと、『プラトー』地下にある宇宙艦ドックの映像に切り替わる。
そこでは五つのコンテナが、それぞれトレーラーに載せられていた。
十五㍍以上はある巨大なコンテナだ。
男はしばらくそれを見つめていると、端末自体の電源を落とし、腰掛ける椅子をぎしっと鳴らす。
そしてデスクに無造作に置かれていた『新暦年表図・第三版』をおもむろに開いた。
時は新暦百四年、二月十七日の出来事である。
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